獅子舞(ししまい)
概要
“獅子(しし)”の曲技を中心とした、大道芸ないし音楽劇的な演目です。楽器演奏とも舞踊とも異なる独特な演目ですが、その印象の強さで、芸能六斎随一の看板的出し物となっています。
獅子とは伝説上の獣で、これを2人の人間が、それぞれ前脚(頭“かしら”)と後脚(尾)を分担して演じます。終盤には“蜘蛛(くも)”が登場し、獅子に向かって蜘蛛のスを撒くところから、両者は決闘を始めます。
「太鼓獅子」⇒獅子の曲芸(地廻り・ノミ取り・碁盤乗り等)⇒獅子と蜘蛛の決闘⇒「太鼓獅子」という流れで展開します(「太鼓獅子」については別頁参照)。
編成
役割 | 人数 | 立ち位置 | 備考 |
---|---|---|---|
獅子 | 2人一組 | 固定せず | |
蜘蛛 | 1名 | 固定せず | |
大太鼓 | 1名 | 中央奥 | |
ドラ | 4名 | 四隅 | |
笛 | 1名以上 | 上手か下手奥 | |
二丁吊り | 1名 | 上手か下手奥 |
獅子の曲技
所作・舞・地廻り | |
---|---|
出端 | 座った状態から立って静止し、曲と共に頭を振りつつ左足から舞台へ入っていく。 |
乱獅子 | 激しく頭を振り、四股を踏むように腰を落として少しずつ歩く。 |
四方 | 頭を大きく左右に振って様子を窺う。尾も合わせて上下に動かす。 |
獅子威し | 高く飛び込んで地面を踏み大きな音を立てる。 |
睨み | 前後とも左足を上げて踏み込み、頭は右から左へ、足を入れ替えた後左から右へ睨む。 |
壬生踊り | 曲に合わせて頭を振り、前後とも左足から拍子良く舞う。止まって仕草を入れることも。 |
藤 | 前脚は左から、後ろ脚は右から一、二、三と歩き、合わせて頭も左から下、中、上と振る。 |
牡丹 | 軽く飛び込み、前はしゃがんで頭を左右に振り、後ろは起きる。次いで前後逆転する。 |
尻尾掻き~寝ころび | 口で尻尾を掻く。その後、半回転して寝ころぶ。 |
愛嬌 | 後ろ脚を持ち上げて顎を乗せ、曲に合わせて目や耳を動かしたり頭を振る。 |
蚤取り | 後ろ足で右耳を掻いた後、頭を蹴り上げ、右脚から左脚へと口で掻いていく。 |
仮寝 | 「愛嬌」の型で目を前髪で隠し、左右又は前後に上体を揺らして居眠る。一度起き再び寝る。 |
遊戯 | 合間にお客や太鼓を使い自由に遊ぶ。 |
調子 | 碁盤に鼻や足で触れ、その様子を窺う。碁盤に乗ったら、それをわざと揺らしてみせる。 |
音頭 | 「肩上げ」「腰立ち」等の際、曲に合わせて頭を振り一回転する。 |
眠り | ゆっくり頭を下ろし、目を前髪で隠して伏せる。そのまま眠る。 |
目覚め | 蜘蛛の気配に耳を上げ、その足音に一度は片膝立ちで起き、右方を見るも、再び眠る。 |
対峙から退治 | 蜘蛛の二度目の足音で起き上がり、「獅子威し」「肩車」などを交えつつ戦う。 |
蜘蛛祓い | 「肩上げ」の状態で前脚を動かしながら蜘蛛に向かって走り込む。 |
蜘蛛殺し | 「肩立ち(尾)」の状態で後脚から蜘蛛を蹴りに行く。 |
衰退 | 蜘蛛の糸により弱り、苦しそうに倒れ込む。 |
蘇生(喜びの舞) | 「太鼓獅子」に合わせて耳や頭を動かし、段々と元気に踊り出す。後半は「肩車」で踊る。 |
<地廻り中の獅子>
技・碁盤 ※上半身担当を“頭方”、下半身担当を“尾方”と記す。 | |
---|---|
肩上げ(開) | 後脚二足で立った格好。頭方が尾方の肩に乗る。この時頭方は足を開き、間に頭を入れる。 |
肩上げ(閉) | 後脚二足で立った格好。頭方が尾方の肩に乗って、閉じた足を伸ばす。頭は横へ出す。 |
腰立ち | 前脚二足で立った格好。尾方が頭方の腰に乗って逆立ちする。 |
首立ち | 「腰立ち」の変形。頭方の肩に尾方が首を合わせて逆立ち。 |
肩立ち(頭) | 後脚二足で立ち、腰をひねったような格好。頭方と尾方の肩を合わせ、頭方が逆立ち。 |
肩立ち(尾) | 前脚二足で立ち、腰をひねったような格好。頭方と尾方の肩を合わせ、尾方が逆立ち。 |
肩車 | 後脚二足で立ち、伸びをしているような格好。尾方が頭方を肩車する。 |
横転 | 右に横転し、即座に左へ横転する。頭方、尾方同時に動く。 |
地車 | 前転。頭方と尾方が重なって行う。 |
中抜き | 後転のような動き。頭が後脚の間を通り抜けて飛び出す。 |
胴巻き | 後脚二足で立ち、上半身を折り曲げて覗くような格好。頭方が尾方の胴に足を巻き付ける。 |
二跳送り | 倒立前転に近い。尾方は頭方を越えて前へ転回する。 |
二跳返り(長) | 走った後倒立後転する。前に走り込んでから、尾方は頭方を担ぎ込み後ろへ転回。 |
二跳返り(短) | その場で倒立後転する。尾方は頭方を担ぎ込み、二歩進んで後ろへ転回。 |
碁盤三段・腰立ち | 三段の碁盤の上で「腰立ち」し、体勢を変えて「二跳送り」で地面に降りる。 |
碁盤五段・腰立ち | 五段の碁盤の上で「腰立ち」し、体勢を変えてから一段ずつ降り、「二跳送り」で降りる。 |
碁盤三段・肩立ち | 三段の碁盤の上で「肩立ち」し、片方を地面に下ろし、そこから再び「肩立ち」。 |
碁盤五段・肩立ち | 五段の碁盤の上で「肩立ち」し、一段ずつ降り、片方を地面に下ろし、そこから「肩立ち」。 |
碁盤六、七段 | さらに多い段数で「腰立ち」や「肩立ち」をする。 |
<三頭揃って「腰立ち」>
人員に余裕のあるときは、このように複数の獅子が出ることもあります。
<碁盤五段・腰立ち>
獅子は、五段に積んだ碁盤の上で「腰立ち」をした後、一段ずつ下に降りていきます。その降りる瞬間に碁盤は一段ずつ引き抜かれていきます。
※獅子の技には訓練が必要です。危険なので良い子は真似しないでね。
獅子と蜘蛛
獅子が「眠り」に入ると、“蜘蛛(くも)”が忍び寄ります。壬生六斎の蜘蛛は能狂言の土蜘蛛と違い、あくまでも“蜘蛛”です。
しばらくはその存在に気付かない獅子ですが、二度目の足音でついに起き上がり「対峙」。以降、両者の格闘が始まります。大道芸的な流れから、今度は活劇もののようになります。
正体を現した蜘蛛は、獅子に向かって“ス”を撒きます。獅子は、「肩上げ」「腰立ち」などの技を交えて対抗します。
最終的には獅子が舞台に残り、「イチイチ(太鼓獅子)」と共に大団円を迎えます。
一山打ち(いっさんうち)のときは続いて「結願(けちがん)」をし、こうして壬生六斎の舞台は幕を閉じるのです。
蜘蛛のス
蜘蛛のスは全て講衆の手作りです。鉛の芯に薄紙を巻いていき、最後にそれを千切りにします。したがって、舞台で撒かれたスの先には鉛の切れ端がくっついています。
この鉛については、ある言い伝えがあります。それは、この鉛の芯を三つ拾って財布に入れておくとお金が貯まるというもの、そしてまた、身につけておくと厄払いになるというものです。
ご観覧の際は、ぜひぜひお持ち帰り下さい。ただし、必要数以上お持ちになっても効果は得られませんのでご注意を。